【総集編】SaaS/サブスクリプションの重要指標「チャーンレート」徹底解説
解約率・離脱率を意味する「チャーンレート(Churn Rate)」は、サブスクリプション(継続)モデルの重要指標です。契約期間をより長く、契約金額をより大きくし、LTV(Life Time Value)を最大化するうえで解約・離脱は第一に防ぐ必要があります。チャーンレートを改善させるには、どのような理解と方法が必要になるのでしょうか。この記事では、チャーンレートの定義・計算方法・改善手法を解説します。
チャーンレートの定義
チャーンレートとは日本語で「解約率・離脱率」を意味します。「チャーン(Churn)」の原義は「かき混ぜる・激しく動く」で、他のサービスに転換するなどして契約を解除するという顧客の行動を指します。よく用いられるチャーンレートには、これまで契約していた顧客がどの程度が離脱したかを「数」で示す「カスタマーチャーンレート」や、離脱により収益がどれだけ低下したかを「金額」で見る「レベニューチャーンレート」の2種類に大別されます。
チャーンレートが重要指標となる2つの理由
チャーンレートは、サブスクリプションサービスやSaaSビジネスの成長に大きなインパクトを与える重要な指標です。その理由は大きく2つあります。
解約によってLTVが低下するため
1つは、SaaSが「同じ顧客に長期間利用してもらう」ことで売上と利益を高めるビジネスモデルだからです。
購入時に売上が立つ「売り切りモデル」であれば、顧客は「毎回違う顧客」になり、ひとつの契約における瞬間的な売上の最大化が重要になります。しかしSaaSのような「サブスクリプションモデル」は、中長期契約に基づいた週や月毎の課金によって形成する収益、すなわち「LTV」を積み上げていくビジネスモデルであるため、早期に解約されてしまうと事業が成立しません。 そのため、 新規顧客を増やすことと同じくらい、既存顧客の維持が重要な意味を持ちます。解約する顧客が増えればチャーンレートが上がり、収益は減少し、LTVは低下してしまうのです。
新規顧客獲得コストの高さ
チャーンレートが重要視されるもう1つの理由に、新規獲得顧客にかかるコストが既存顧客を維持するコストより大きいという事実が挙げられます。一般的に新規顧客の獲得には、既存顧客維持に比べて5倍のコストがかかる(「1:5の法則」)といわれています。
新規顧客は獲得コストが高いにもかかわらず、廉価プランによる契約開始割合が大きく、利益率が低い傾向にあるため、既存顧客の維持をおろそかにすると収益構造が悪化します。長期間利用する顧客を多く確保できれば、サービスにとって安定した収益が見込め、利益率も高まります。
また、新規顧客を順調に獲得できたとしてもチャーンレートが高いままでは、契約期間が短い顧客の割合が高くなり、LTVも上がりません。チャーンレートを改善せずに新規獲得に勤しむのは、底が抜けた鍋に水を入れているのと同じ状態なのです。
チャーンレートとLTVの関係性
顧客数をベースとした年間チャーンレートが25%であれば、4年後には顧客がゼロになってしまう計算となります。一方、10%に改善できれば顧客がゼロになるまでの期間は10年、5%なら20年、4%なら25年へと平均顧客寿命は長くなります。このようにチャーンレートが数%変動するだけでLTVは大きく変化するのです。チャーンレートの計算方法
前述の通り、チャーンレートには大きく分けて2種類の算出方法があります。
・顧客数をベースにした「カスタマーチャーンレート」
・収益をベースにした「レベニューチャーンレート」
これらのチャーンレートは、サービスにおける料金プランの構成によって使い分けます。
提供するサービスの料金プランが1つ、もしくはプラン間の金額差が些少であれば、顧客数の増減と収益は連動しますので、カスタマーチャーンレートの推移を追えば、大体の変化は把握できます。
一方、複数の料金プランがあり、それぞれの金額差が大きいサービスでは、同じ1顧客でも収益に与える影響が異なります。そのため顧客数の推移だけを見ていると、プライオリティーの高い顧客の離脱を見過ごす可能性が生じます。そのため、顧客数と収益額の2つの視点から解約率を見る必要があるのです。
それでは、各チャーンレートを詳しく解説していきます。
カスタマーチャーンレート(CCR)
カスタマーチャーンレートは、顧客数を基準としたシンプルな指標です。顧客数ではなくアカウント数で計算する場合は「アカウントチャーンレート」と区別して呼ばれます。
顧客数をベースに一定期間で解約した率を表し、月次での計算式は
【(当月の解約顧客数÷前月末の顧客数)×100】
「前月末の顧客数」を用いるのは、計算期間中に新規に契約・加入した顧客の数を含まずに算出するためです。
例:当月の解約顧客数が10、前月末の顧客数が10,000の場合
10÷10,000×100=0.1%
レベニューチャーンレート(MRRチャーンレート)
収益の増減を基準としたチャーンレートが「レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)」です。「収益チャーンレート」や「MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)チャーンレート」とも呼ばれます。
レベニューチャーンレートには「グロスレベニューチャーンレート(Gross Revenue Churn Rate)」と「ネットレベニューチャーンレート(Net Revenue Churn Rate)」の2種類あります。
グロスレベニューチャーンレート(Gross Revenue Churn Rate)
グロスレベニューチャーンレートは、解約やダウングレードにより減少した金額をベースに算出したチャーンレートです。
【(当月に失ったMRR(月次経常利益)÷前月末のMRR(月次経常利益))】
例:当月に失ったMRRが30、前月末のMRRが1000の場合、
30÷1000×100=3%
ネットレベニューチャーンレート(Net Revenue Churn Rate)
解約やダウングレード等により減少した金額と、アップグレードやクロスセルによる増加した金額を合算したチャーンレート。売上全体の把握や予測ために参照される指標です。
【当月に失ったMRR(月次経常利益) - アップセルなどのMRR(月次経常利益)÷前月末のMRR】
例:当月に失ったMRRが30、当月の増加MRRが20、前月末のMRRが1000の場合、
(30−20)÷1000×100=1%
解約があっても利益が伸びる状態、「ネガティブチャーン」とは
カスタマーチャーンレートとグロスレベニューチャーンレートは、必ずプラスの数値になりますが、ネットレベニューチャーンレートだけは、マイナスの数値になることがあります。
例:当月に失ったMRRが30、当月のアップセル MRRが80、前月末のMRRが1000の場合、
(30−80)÷1000×100=−5(%)
この解約率がマイナスになる状態、つまり解約やダウングレードによる収益減よりも、アップグレードによる収益増が上回った状態を「ネガティブチャーン」と呼びます。ネガティブチャーンを目指すには、この後に示す改善手法の継続によってチャーンレート低下を目指すとともに、アップセル・クロスセルを促して顧客単価を上げることが大切です。
チャーンレート改善手法
SaaS提供企業のビジネス成長を左右する重要な指標・チャーンレートはどうすれば改善できるのでしょうか。その具体的な方法について紹介します。
利用状況や解約理由の精査
チャーンレートを改善するには、まずは顧客がサービスをどのように利用しているかを把握しなければなりません。実際の使用率をもとにした各種ログデータの検証や、顧客との直接的なコミュニケーションから得た情報から、より正確な状況把握を目指しましょう。
解約やダウングレードに至った場合、その理由の精査が重要です。「部署の再編による利用者数減少」「退職者発生によるアカウント減少」などの不可避な理由なのか。または「サポート不足による不満」「機能を使いこなせない」といったサポート次第で改善可能な理由なのか。それぞれの理由をカテゴリーごとに分けて考えるようにしましょう。解約理由を正確に聞き取ることで、プランの見直し、顧客への提案などが具体的になり、チャーンレートの低下につながります。
カスタマーサクセス活動によるチャーンレート低下
顧客との関係性を構築し、顧客の情報蓄積ができていれば、解約に至る前に先回りしてそれを防止できます。例えば、利用状況データからサービスを活用しきれていないことが判明した顧客に対しては、きめ細かなサポートを通じて価値を実感できる使い方を提案することで、解約を未然に防ぐことができるでしょう。
また上位プランでは機能が多すぎると感じている顧客に対しては、時にはダウングレードによるプラン変更を提案して長期契約につながる対策を採ることも大切です。多くのサービスにおいて、利用期間が長くなれば長くなるほど解約率は低くなる傾向にあるためです。 契約期間の長期化を狙う手法として、月額プランよりも割安になる年額プランを提供することも有効です。
執筆者情報:
渡邉 剛(わたなべ ごう)
ユニリタ自社開発のETLツール「Waha! Transformer」の導入教育/サポート、データ活用システム(ETL/DWH/BI)構築のプロジェクトマネージャーを歴任し、2018年にカスタマーサクセスチームの立上げ責任者を担当。
その経験からカスタマーサクセス専用ツールの必要性を実感し「Growwwing」の事業立上げをおこなう。
2020年7月の事業化からプロダクトマーケティングとカスタマーサクセスの責任者を担当。
カスタマーサクセスコミュニティ「CS KOMMONS」においてハイタッチ部 副部長も歴任。
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