【実践編】カスタマーサクセス視点で見る「BtoBサブスクリプションサービスまとめ」
「カスタマーサクセス」が広く認知されるようになった背景に、サブスクリプションの浸透があります。特にSaaSをはじめとするBtoBサブスクリプションサービスを提供している事業者は、積極的にカスタマーサクセス活動を取り入れており、最近ではサービス提供者のカスタマーサクセス活動を支援する事業者も増えていることから、今やサブスクリプションとは切り離すことができない関係にあります。
ここでは、国内外の企業が提供する主要なBtoBサブスクリプションサービスを、カスタマーサクセスの視点でその特徴や取り組みを解説します。
「Microsoft 365(旧 Office 365)」
2011年6月に「Office 365」がローンチされ、Office系ソフトの定番「Microsoft Office」が、これまでの売り切りモデルからサブスクリプションモデルに切り替わりました。2020年3月からは「Microsoft 365」へと名称が変更されています。
オンライン版のOfficeアプリは無料で利用できますが、PCにインストールするこれまでのパッケージ版(デスクトップ版)の利用には「Microsoft 365」の契約が必要となっています。
SOHOユーザーから国際的な巨大企業、公的機関など多くの企業ユーザーを抱えるため、「一般法人向け」「大企業向け」「行政機関向け」「教育機関向け」「非営利団体向け」などの組織形態別に契約プランは細分化され、それぞれに応じたきめの細かいカスタマーサクセス活動が行われています。
顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、顧客が掲げるビジネスゴールへと導く「カスタマーサクセスアカウントマネージャー(CSAM)」、法人向けに提供している年間契約サービス「プレミアサポートサービス」の契約企業に対し、状況に応じて必要なサービスを提供する「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」など、カスタマーサクセス領域における職種や人員も多く、CSAMはグローバルで1,000名規模の体制を擁しています。
「Backlog」
株式会社ヌーラボが2006年から商用版を提供するプロジェクト管理ツール「Backlog(バックログ)」は、2018年8月に利用者は100万人を超え、「2019 SaaS Awards」を日本発のサービスとして受賞するなど、国産のBtoBサブスクリプションを代表するサービスです。
大規模ソフトウエア開発やWeb制作、マーケティングプランの進捗管理、バックオフィス業務やカスタマーサポートの課題管理など、Backlogはさまざまなシーンで幅広く利用されています。非IT分野での普及も進んでおり、ITツールへの習熟度が低いユーザーでも利用できるわかりやすいUIによって、声優業のキャスティング・スタジオ収録の調整といったマネジメント管理やPTAでのタスク管理・情報共有などでも利用されています。
カスタマーサクセスの視点では、セールス担当による導入を目的とした訪問営業を行わず、導入企業からの紹介によって利用者を増加させた点、また主にトライアル利用者を対象としたセミナー形式のオンボーディング「Backlog School」や、利用者専用のコミュニティ「JBUG(ジェイバグ)」におけるナレッジ共有など、ロータッチ、コミュニティタッチでのアプローチをバランスよく織りまぜてサービスの活用を促し、解約予防につなげている点が特徴的です。
「box」
2005年に米国で創業した「box」は、セキュアな環境でさまざまなデータを共有し、編集、署名、分類、保存を同じプラットフォーム上で管理できる容量無制限の企業向けコンテンツコラボレーションサービスです。現在では、世界で9万7,000社以上の顧客を持つまでに成長しています。
単純なオンラインストレージサービスと見なされがちですが、7段階のアクセス権限付与機能、50世代以上のファイルバージョン管理機能、外部とのファイル共有機能、最先端のセキュリティなど、基本的なデータ保存機能だけでなく、厳密な管理と柔軟な運用をひとつのサービスで完結させる「コンテンツプラットフォーム」を標榜しています。
カスタマーサクセス活動も、boxを単なるオンラインストレージではなくコンテンツプラットフォームとして活用してもらうことで、「顧客を感動させること(Blow out customer’s minds)」を目指しています。そのため、カスタマーサクセスマネージャーは導入による効果とROIの最大化に向けて伴走する役割に徹し、顧客の習熟度に応じた手厚いアフターケアを提供しています。
また、顧客へのカスタマーサクセスに加えて、一定の要件を満たす代理店には日本独自のパートナー向けカスタマサクセスマネージャー(CSM)制度を設け、カスタマーサクセスマネージャーとしてのトレーニングを提供するなど、販売代理店へのカスタマーサクセス(パートナーサクセス)にも力を入れています。
「Salesforce」
Salesforceは、営業支援やカスタマーサービス、EC、マーケティング、コラボレーション、分析など多彩な用途に対応した、統合型顧客管理(CRM)ソリューションです。営業支援の「Sales Cloud」、顧客情報を集約し各部門との連携をサポートする「Customer 360」、デジタルマーケティングアクションを自動化する「Marketing Cloud」など、マーケティング・営業活動におけるほぼすべてのプロセスをカバーするプロダクトラインナップを擁し、SaaSという世界においてトップクラスのシェアと知名度を誇ります。
Salesforceが、BtoBサブスクリプションというモデルを世の中に普及させたといっても過言ではありません。業務用アプリケーションのライセンス購入に多額の費用を要した時代に、低額の月次契約で利用できるサブスクリプションでのサービス提供をいち早くを開始し、短期間で多くの顧客を獲得しました。しかし当初低価格がゆえに解約も多く、月次で8%という高い解約率に悩んでいました。その解決への模索が、サービスの継続利用によって顧客のビジネスに成功をもたらすカスタマーサクセスの発想を生み、LTVの最大化を目指す方向へのシフトチェンジをもたらしました。この成功が、「The Model」というカスタマージャーニーにそって営業活動を分業・専門化することの有効性を市場に知らしめ、これまで営業担当者が新規契約獲得活動の合間に行っていた既存顧客への対応を「カスタマーサクセス」と呼んで専門的かつ重要な役割として定義し、市場からの注目を集めるきっかけとなります。
Salesforceのカスタマーサクセスマネージャーは、システムログを集計して数値化した指標を活用し、顧客のカスタマーサクセス活動に伴走します。まず見るのは「ログイン率」と「データ変更率」でこの数値が低い顧客は、サービスの活用が不十分で、いずれ利用しなくなり、解約につながる可能性が高いと判断します。さらに「レポート参照数」や「ワークフロー設定数」などを主要指標として、顧客の利用率低下の兆候が見られると、先行事例紹介などを通じて活用を促すサポートを行い、利用頻度低下に起因する解約を防ぐ取り組みを行っています。
「Sansan」
Sansan株式会社が提供する「Sansan」は、国内シェア84%、SOHOから大企業まで7,000社が利用している、サブスクリプション型のクラウド名刺管理サービスです。名刺交換で得られた社内の名刺をデジタルデータ化して一括管理し、あらゆる顧客データと連携することで、働き方を変え、企業の成⻑を後押します。
また個人でも利用可能な、名刺でつながるビジネス専用SNS「Eight」も同社が提供しています。スマホで撮影した名刺をデータベース化する名刺管理機能のほか、オンライン名刺交換機能、「Eight」上でつながっている相手が転職や昇進などで肩書などが変更された場合に通知される機能などを持つ、個人単位での人脈管理サービスですが「Sansan」とのデータ連係もスムーズで、企業向け有料プラン「企業向けプレミアム」も提供されています。
Sansanでは国内企業としてはいち早く、2012年にカスタマーサクセス部門を創設し、2020年5月期末では「カスタマーサクセス部」に約60人が在籍し、解約率はSaaSとしてはトップクラスの0.60%という実績を持ちます。
同社のカスタマーサクセス活動の一つに、顧客のユースケースをまとめたオウンドメディアがあります。オンボーディングのセルフ化を促すため、サービスの機能にフォーカスしたヘルプページ以外に、顧客の典型的な利用シーンに焦点を当てた記事が顧客の自助努力を促す役割を担っています。また、2018年から開始したオンボーディングの有償化メニュー「Sansanカスタマーサクセスプラン」も特徴的です。無料のオンボーディングでも、契約直後であれば顧客の意欲も高い傾向にありますが、全顧客に対してタイムリにー実施できるわけではありません。その点、有償のオンボーディングプランを契約した顧客は契約からの時間経過に関係なく意欲が高まる傾向があります。オンボーディングの有料化には社内でも慎重な意見が出されましたが、結果的により高いやる気を引き出す手法として効果を実証し、解約率の低下も実現していると考えられます。
「Zendesk」
2007年にデンマークで創業され、現在では140か国以上で20万社以上の導入実績を持ち、日本でも2,500社が導入しているカスタマーサポートプラットフォーム「Zendesk」も、サブスクリプションサービスです。
特徴的な機能の一つが、異なるコミュニケーションツールによるカスタマーサポート情報の一元管理です。LINEやWhatsApp、Instagramなどのソーシャルメッセージアプリ、Webサイト、モバイルアプリなど、複数のツールで行われる顧客とのすべての会話履歴をZendesk内で一元管理でき、カスタマーサポート業務の効率化をもたらします。そのほか、プログラミングの知識がなくても、チャットボットの回答フローを直感的な操作で構築できたり、AIで顧客対応を自動化したりすることも可能です。顧客からの問い合わせを、顧客が望むチャネルで受け付けて整理し、効率的により高い顧客満足を生み出すカスタマーサポートの構築を目指しています。
また、カスタマーサポートに関連する情報をさまざまな切り口から紹介するブログ「ライブラリ」では、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の向上に役立つHow Toや実践的な事例、コンタクトセンターにおけるカスタマーサクセスをテーマにしたセミナーのレポートなどが読み物として公開され、顧客はもちろん未契約ユーザーでも閲覧が可能です。カスタマーサポートのナレッジを広く公開することで顧客への情報提供だけでなく、新規ユーザーの獲得にも役立てています。
執筆者情報:
渡邉 剛(わたなべ ごう)
ユニリタ自社開発のETLツール「Waha! Transformer」の導入教育/サポート、データ活用システム(ETL/DWH/BI)構築のプロジェクトマネージャーを歴任し、2018年にカスタマーサクセスチームの立上げ責任者を担当。
その経験からカスタマーサクセス専用ツールの必要性を実感し「Growwwing」の事業立上げをおこなう。
2020年7月の事業化からプロダクトマーケティングとカスタマーサクセスの責任者を担当。
カスタマーサクセスコミュニティ「CS KOMMONS」においてハイタッチ部 副部長も歴任。
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LTV最大化のためのカスタマーサクセスプラットフォーム『Growwwing グローウィング』のサービス資料を無料でダウンロードいただけます。
『Growwwing グローウィング 』は、解約防止とネガティブチャーンを達成する顧客管理が実現。Salesforceとの相性は全ツールNo.1です。