【総集編】SaaSにおけるオンボーディングとは何か?徹底解説
「オンボーディング(On Boarding)」は、「会社や組織のルール、業務、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を理解し、企業文化になじむために実施する研修や教育課程・オリエンテーション」をあらわす人事(HR)用語として広く知られています。近年、サービスの新しいユーザーとなる顧客に、操作や機能、生み出す成果を体験・理解してもらい、利用を通じた成功体験に早くから触れ、スムーズに利用を開始できるよう伴走することも「オンボーディング」と呼ばれており、その認知が高まってきています。
SaaSにおけるオンボーディングの位置づけ
SaaSビジネスにおけるオンボーディングは、顧客がサービスを活用する前に「求める体験が得られない」と判断して早期に解約する事態を防ぐとともに、サービスに対する顧客のロイヤルティ向上のきっかけとなり、継続利用へと着実につなげるための重要なプロセスです。早期解約の予防と利用期間の長期化は、顧客からの継続的な収益である「LTV」を最大化させるのに欠かせません。
SaaSにおけるオンボーディングの位置づけは、LTV最大化を目指すカスタマーサクセス(Customer Success)活動のスタート地点であり、その後の顧客の成功、ひいてはSaaSビジネスの成功を左右するものだといえるでしょう。
カスタマーサクセスにおけるオンボーディング
カスタマーサクセスとは、プロダクトやサービスを利用する顧客に、その利用を通じて成功体験を届けることを意味します。
そして、成功体験の提供による顧客の売上・利益の増大が、ひいては自社の成長につながります。
カスタマーサクセスのサイクルは、大きく「育成・支援フェーズ」と「収穫フェーズ」に分かれます。
・育成・支援フェーズ:導入〜導入後に生じる課題解決〜課題を解決して適応〜契約継続
・収穫フェーズ:契約拡大・愛着・口コミ(リファラル)
「育成・支援フェーズ」では、顧客の成功を実現させるところまでが正念場で、その成否が「収穫フェーズ」での成長を左右します。
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングは、「育成・支援」の第一ステップで、オンボーディングで提供する顧客体験が継続利用の成否を決めるといっても過言ではありません。
オンボーディングは顧客がSaaSを契約した直後から始まり、アカウントの登録・開設や基本的な設定を完了し、顧客が一連の利用方法や操作方法を理解し、独りでサービスを使って業務可能な状態へ導くためのプロセスです。SaaSには「利用時だけ契約でき、不要な時はすぐ解約できる」という利点がありますが、最低利用期間内に顧客が効果を感じられなければ、すぐ解約されるということになります。
導入段階から顧客に伴走し、サービスの機能や効果を体験してもらい、早期の解約を防ぐことは非常に重要です。
通常数日〜数週間程度の期間で実施され、以下に挙げる段階を踏みます。
顧客のビジネス/状況理解
まずは、顧客とのコミュニケーションを通じて得られる情報を統合して整理し、顧客が置かれている状況を正しく理解することです。
顧客を本質的に理解しなくては、顧客のニーズを満たすオンボーディングを開始できません。
オンボーディングを進めていると、サービスに対する期待値と、使いこなしたいという意欲が最高潮になるときがきます。万が一そこで期待を裏切れば、顧客からの信頼を回復するのは難しくなるでしょう。 オンボーディング内容とともに、品質でもニーズを満たすよう、適切な担当者を選出しましょう。
サービス利用方法のレクチャー
設定を済ませたら、次は顧客が一通りの使い方を理解し、迷うことなく自立的にサービスを利用できるところまで見届ける段階です。
オンボーディングでは、顧客がサービスの価値を実感するまでにかかる時間の短さ「Time to Value(TtV)」を最重視します。仮に与えられる価値は小さくても、少しでも早く顧客へ価値を届けるべきです。
具体的には、「データ連携が完了しダッシュボード上で一覧できる」「未整理だった業務フローがビジュアル化される」「レポートが出力される」などありますが、「機能を通じて成果物ができる」ことが直感的に伝わるレクチャープログラムが有効です。また、動画によるガイドで一連の流れを短時間で理解してもらうのも価値を早期に体感してもらう上での有効な手段です。
円滑な利用開始・安定運用までの伴走
オンボーディングはあくまでも、顧客がサービスを利用できるようになり、顧客自身で安定して運用できるようになるまでの「伴走」だという点を念頭に置きましょう。オンボーディング完了後は、サポートのない状態でもサービスを通じて価値を生み出し成功体験を継続してもらう状態へと移行するのが理想です。
オンボーディング完了後にも関わらず、サービスが利活用されずに解約されてしまうケースも少なくありません。その原因はオンボーディングの失敗です。サービスの価値を感じられないまま解約する顧客が再び契約する可能性は低いでしょう。こうならないように、価値を体感してもらえるところまで伴走することが重要なのです。
SaaSにおけるオンボーディングのゴールとは?
オンボーディングのゴールとは「一定期間のオンボーディングを終えて使い方を理解した」状態ではなく、オンボーディング中に「成功体験」を経験し、「利用して/契約してよかった」と実感した状態です。以前のステップに戻る必要を感じず、「もっと使いこなしたい」と感じてもらうオンボーディングを目指しましょう。
オンボーディングの手法
アカウント登録やユーザープロフィール設定など、初期設定は顧客にとって、サービスに初めて触れる体験です。初期の印象は今後の関係に大きく影響します。利用開始前に、「とっつきにくい」といったネガティブな印象を与えないよう細心の注意が必要になります。
オンボーディングを開始する際には、顧客の状況を踏まえ、顧客ニーズを理解したうえで、もっとも効率的で適切なオンボーディングレベルや種類を設定します。
サービスの機能やタイプによる分類
設定基準としては、
・専門性が高く丁寧な説明や使用方法のレクチャーが必要になるか
・機能やUIが直感的に利用でき、補足程度の説明で足りるものか
という点が最初の要素になります。そのうえで、顧客の契約形態(契約プランやアカウント数)などをもとに「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」のいずれかから適したアプローチを選択します。
それぞれのアプローチ手法の違い
ハイタッチ
オンボーディング担当者が顧客直接コミュニケーションをとり、丁寧に育成・指導を行うのが「ハイタッチ」です。顧客のニーズに合わせた説明会や個別勉強会など、手厚い対応でサービスを確実に使いこなせるようにサポートし、成果の創出を支援します。大口顧客や、早期に使い方を習得してもらう必要がある場合などに採用する手法です。必要に応じて、ミーティングを実施しつつ課題確認やゴールの擦り合わせを行います。
ロータッチ
ハイタッチに比べてコストを抑えるものの、人による対応を行うのが「ロータッチ」です。具体的には、複数顧客が同時に参加するセミナーや、オンラインでのレクチャー、定期的なミーティング、電話での操作説明などになります。顧客との関係性を構築するうえでヒアリングを要するケースや都度のサポートが必要な顧客に対応する手法です。
テックタッチ
もっとも多い顧客層に対して人の手を介さない手法で行うオンボーディングが「テックタッチ」です。FAQサイトやチャット、メール、レクチャー動画を使って顧客が自習するコンテンツの提供や、顧客同士のナレッジ共有サイトによってユーザー間で疑問を解消する仕組みなどが具体例になります。
提供するサービスのタイプと、顧客規模、契約の大小、状況などの要素から適切なオンボーディングの手法を選択し、顧客の円滑な利用開始・サービスの価値体験によるロイヤルティの向上とその後の利用継続を実現しましょう。
SaaSビジネスのグロースに欠かせないオンボーディング
顧客との長期的な関係構築が利益を生み出すSaaSビジネスにおいて、オンボーディングがどのような位置づけにあるか、そしてどのような段階を経てゴールへと至るかを解説しました。
オンボーディングはカスタマーサクセス活動の第一歩で、顧客への最初の成功体験を提供するフェーズです。「始めよければすべてよし」という格言の示すとおり、オンボーディングはカスタマーサクセス活動の円滑なスタートには欠かせません。
さらに、オンボーディングの成功は「育成・支援フェーズ」から「収穫フェーズ」へと移行できる顧客の割合を高めます。収穫フェーズの顧客は、自らサービスを活用して成功体験を生み出し、愛着を持ったサービスを知り合いに勧めるリファラルを生み出します。そしてリファラルが新たな顧客をもたらし、SaaSビジネスはさらなるグロースのサイクルを巡りはじめます。
顧客の思いやニーズ、抱えている課題をくみ取り、その解決に向けた提案を行いながら、サービス導入の「小さな一歩、されど大きな一歩」を歩む顧客に丁寧に寄り添いつつ伴走し、独自に歩みを進めることができる段階まで導くことで、その後の道のりにおける顧客の成功可能性も高まるというものです。
執筆者情報:
渡邉 剛(わたなべ ごう)
ユニリタ自社開発のETLツール「Waha! Transformer」の導入教育/サポート、データ活用システム(ETL/DWH/BI)構築のプロジェクトマネージャーを歴任し、2018年にカスタマーサクセスチームの立上げ責任者を担当。
その経験からカスタマーサクセス専用ツールの必要性を実感し「Growwwing」の事業立上げをおこなう。
2020年7月の事業化からプロダクトマーケティングとカスタマーサクセスの責任者を担当。
カスタマーサクセスコミュニティ「CS KOMMONS」においてハイタッチ部 副部長も歴任。
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