【応用編】声なき声を想像せよ!失敗事例から学ぶ「チャーン(解約)」間近の顧客マインド
カスタマーサクセスでは、顧客の声なき声を想像することが大切です。顧客とのコミュニケーションを通じて、彼らがおかれた状況やマインドを定性的に把握しましょう。本記事では、SaaSやサブスクリプション事業の失敗事例からチャーン(解約)間近の顧客マインドを考えていきます。
顧客が自社の、製品やサービスを利用し続けることは「当たり前」ではありません。顧客との契約が続いているからといって、連絡を怠ったり、能動的な提案が滞ったりすると、急にチャーン(解約)意向を示されることがあります。受動的に反応するのではなく、顧客の声なき声を想像しながら、積極的(プロアクティブ)に行動していくことが大切です。本記事では、SaaSやサブスクリプション事業の失敗事例をいくつか取り上げ、顧客の解約理由や解決策を考えていきます。
急にチャーン意向を示されたら?失敗事例とその対策を解説
「顧客にしばらく連絡していない」「顧客から質問がないので、オンボーディング後しばらく放置している……」
こういう場合、顧客との関係に黄信号が灯っています。カスタマーサクセスでは、ヘルススコアを通じて顧客の健康状態を定量的に把握するだけでなく、継続的なコミュニケーションを通じて、顧客のおかれた環境やマインドを定性的に理解していくことが大切です。顧客の声なき声を想像せず、受動的な対応に終始していると「嘘でしょ?」というタイミングでチャーン意向を示されることがあります。
ここでは、思わぬタイミングで解約や契約数の縮小に至った事例を3つ紹介し、何が解約要因となったのか、解約背景にどのような顧客マインドがあったのかを見ていきます。
・オンボーディングの1カ月後に「解約」したいといわれたケース
・ログイン回数が「多い」のにクレーム電話がきた事例
・「システムを使えない」社員分の契約が全て解約されたケース
それぞれの事例の対策も紹介するため、自社の状況に当てはめてカスタマーサクセスのあり方を見直しましょう。
オンボーディングの1カ月後に「解約」したいと言われたケース
まず紹介するのは、オンボーディングの1カ月後、急に解約したいと伝えられたケースです。顧客管理システム(CRM)の事業者の例ですが、当初の約束(契約内容)通りにオンボーディングを実施したにも関わらず、1カ月経過した直後に解約意向を伝えられました。顧客対応のどの部分に問題があったのでしょうか。解約を決めた顧客のマインドや、オンボーディングがサービス継続に結びつかなかった理由を解説していきます。
顧客管理システムの利用者の事例
以下は顧客管理システムの利用者の事例です。
・顧客側の担当者が少数体制の2名
・オンボーディングをマニュアルどおりに実施
・特に質問がなかったため、1カ月経過観察
・利用開始から1カ月後、突然解約意向の連絡
この事例では、顧客側のCS担当者が2名と少数でしたが、マニュアルどおりにオンボーディングを実施しています。顧客からの質問が特になかったため、オンボーディングが完了したとみなし、能動的なアクションを1カ月間行いませんでした。しかし、サービス利用開始から1カ月が経過した直後、突如として解約意向を伝えられました。
解約に至った顧客のマインド
背景としては、顧客側のCS組織は2名の少数体制だったため、カスタマーサクセス活動以外の業務に忙殺され、ツール運用について吟味する余裕がありませんでした。また、オンボーディングの内容は使い方の説明など、定型的なレクチャーに終始していました。そのため、自社のカスタマーサクセス活動において、具体的にツールをどう活用していくかを自分たちで考える必要がありました。
ツール運用について考える時間が確保できない中、サービス提供者側からも特に連絡がなかったため、これ以上の利用継続はコストの垂れ流しだと判断され、解約連絡に至っています。
失敗のポイントと解決策
この事例の問題点は3つあります。
・セールスからの顧客情報の引き継ぎが不足している
・ありきたりな説明に終始し、顧客の理解をゴールに設定している
・オンボーディングから1カ月も顧客を放置している
まずはセールス部門との情報連携が不足しており、カスタマーサクセス部門が顧客状況を把握できていない点が挙げられます。また、能動的な働きかけがなく、顧客のマインドや隠れたニーズを深掘りする姿勢がありません。少なくとも、顧客がサービスを導入した背景、現状の運用体制、本質的な悩みや課題、の3点を把握する必要があります。
次に、オンボーディングの内容がありきたりなレクチャーに終始しており、「顧客の理解」をゴールに設定している点も問題です。サービスの使い方を知ってもらうだけでなく、顧客の業務の流れにサービスを定着させ、ビジネスの成功に導くのが本来のカスタマーサクセスのあり方です。
また、オンボーディングから顧客を1カ月も放置したことも、サービス解約の直接の原因となっています。少なくとも、オンボーディングの翌週には顧客に一度は連絡をしましょう。顧客から「わかりました」という返答があっても、理解度は30%程度だと心得て、アクションを起こすことが大切です。
ログイン回数が「多い」のにクレーム電話がきた事例
次の事例は、ログイン回数が非常に多かったにもかかわらず、クレームの電話があったケースです。自社サービスを頻繁に使っていたはずの顧客が、なぜクレームに至ったことは、一見不可解な事象かも知れません。しかし、ログイン回数が「多い」ことは、必ずしも「良いこと」のあらわれとは限りません。顧客との直接的なコミュニケーションを通じて、利用状況だけではわからない隠れた問題に気づくことが大切です。
勤怠管理システムの利用者の事例
以下は勤怠管理システムの利用者の事例です。
- 導入先は社員数30名のスタートアップ企業
↓
- 導入当日から、全社員が複数回ログインしているのを確認
↓
- しかし、人事担当者から不満と解約意向を伝える入電があった
この事例では、サービス導入初日から、全社員が複数回にわたってログインしていることがわかりました。また、出退勤時間以外にも多くのログインがあり「自社のサービスをすごく使ってくれている」と安心していました。しかし、人事担当者から入電があり、急にサービスへの不満と解約意向を伝えられました。
解約に至った顧客(人事担当者)のマインド
導入前のサービス担当者による、社内説明は分かりやすく、理解できたため、導入した当日から全社員が積極的にサービスを活用しました。しかし、実は一部の社員から、打刻時間が正確に保存されないという不具合が報告されていました。そのため、時間を置いて再度ログインしてから出退勤時間を手入力し、保存し直すように指示をしました。営業時間以外に多数のログインがあったのは、この不具合対応のためです。
しかし、その後も不具合が解消されないという報告を多数受け、人事担当者自身も事象の再現を確認できたため、解約の連絡に至っています。
失敗のポイントと解決策
この事例のとおり、ログインが「多い」ことは、必ずしも「良いこと」とは限りません。ログインが「多い」ことを「自社のサービスを頻繁かつ『好意的』に使ってくれている」と短絡的に理解したため、クレームさらには解約につながっています。通常よりもログインが明らかに多い場合は「異常値」の可能性も疑いましょう。
顧客の利用状況から読み取れる定量的なデータだけに頼ると、潜在的な不満や悩みをとらえきれず、顧客の状況に対して後手に回ってしまうことも考えられます。カスタマーサクセスでは、顧客との直接的なコミュニケーションを通じて、定性的な情報(顧客のおかれた状況やマインド)も把握することが大切です。
「システムを使えない」社員分の契約が全て解約されたケース
最後の事例は、サービスの利用頻度が高いユーザーばかりに目を向けていたら「サービスを使えないユーザー」の契約がすべて解約されてしまったケースです。ユーザーによって、ITリテラシーに大きな差があります。営業組織のように、ツールの有効性を早く感じ取ることができない場合は、シビアに解約を決める顧客も存在するため、ITリテラシーの差に配慮したオンボーディングやサポートが必要です。
タスク管理システムの利用者の事例
以下はタスク管理システムの利用者の事例です。
- 導入先は社員数300名の営業代行会社
↓
- 導入当日、社員60名によるログイン&利用を確認
↓
- 60名の一部社員に対し、利用所感のインタビューを実施
↓
- さらなる活用方法をレクチャーするための説明会を提案し、希望者に対し実施
↓
- その後、300名全員のログインを確認
↓
- しかし、3カ月後に契約アカウント数を減らしたいという連絡を受ける
この事例では、導入初日から社員60名の積極的なサービス利用が確認されたため、積極的なサービス利用をしていた一部社員へのアクションを強化し、応用的な内容のレクチャーを提供しました。その後、300名全員のログインが確認されたにもかかわらず、3カ月後に契約アカウント数を減らしたいという要望がありました。
解約に至った顧客(営業部責任者)のマインド
導入後、ITリテラシーの高い一部社員(60名)の利用は確認できたものの、それ以外の社員の利用実績はほとんどありませんでした。利用している社員の業務効率化は確認できており、活用に向けたインタビューの依頼があったため、断る理由はありませんでした。
しかし、その後も利用している社員とそうでない社員の間の差は増すばかりだったので、後者の分の契約はすべて解約することにしました。ツールを使えるかどうか、成果が出ているのかを考えて決断しました。
失敗のポイントと解決策
顧客の企業や組織全体といった多くのユーザーに利用してもらうサービスにおいては、顧客の組織内でのITリテラシーの差を考慮する必要があります。ITリテラシーの高い一部社員のみへのアクションは、ロイヤルカスタマーだけを重視する施策と同じで、他の顧客を無視してしまっています。タスク管理ツールという、全社導入・全社利用が前提であるサービスの特性も意識し、ユーザーへのサポートを見直しましょう。
また、この事例の場合は、顧客が営業組織であることを念頭に置く必要があります。営業組織の本質的な目線の先には、「売上をどうやって伸ばすか」というテーマが強くあります。効率化のためにツールを導入しても、それ自体に時間やコストをかけるような選択はしません。ツールを使える社員と使えない社員の間に実績の差が生じても、それも含めて「営業」だとシビアに判断を下す可能性を考慮しておきましょう。
まとめ
カスタマーサクセスでは「顧客の声」を想像することが大切です。契約後の顧客の利用状況を定量的に分析するだけでは、顧客の隠れたニーズを汲み取れないケースもあります。顧客との継続的なコミュニケーションを通じて、利用状況だけではわからない定性的な情報(顧客のおかれた状況やマインド)を把握していくことが重要です。
本記事で取り上げたチャーン付近の顧客マインドを知り、顧客の声なき声を活かしてカスタマーサクセスに取り組みましょう。
執筆者情報:
渡邉 剛(わたなべ ごう)
ユニリタ自社開発のETLツール「Waha! Transformer」の導入教育/サポート、データ活用システム(ETL/DWH/BI)構築のプロジェクトマネージャーを歴任し、2018年にカスタマーサクセスチームの立上げ責任者を担当。
その経験からカスタマーサクセス専用ツールの必要性を実感し「Growwwing」の事業立上げをおこなう。
2020年7月の事業化からプロダクトマーケティングとカスタマーサクセスの責任者を担当。
カスタマーサクセスコミュニティ「CS KOMMONS」においてハイタッチ部 副部長も歴任。
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