【総集編】「LTV(Life Time Value)とは?」を「算出方法」と「最大化手法」の理解から紐解く

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「顧客生涯価値」と訳される「LTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー)」は、SaaSなどのサブスクリプションビジネスを提供する企業が最重要視する指標の一つです。顧客との関係性を長期間にわたって形成することにより、一顧客から得られる継続的収益の合計値である「LTV」を最大化する。これがサブスクリプションビジネスのゴールです。今回はそのLTVの正しい理解に向け、その算出方法と最大化手法を解説します。

 

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目次

LTVはサブスクリプションモデルに欠かせない概念


LTVは「ある企業の取引開始から終了までの間に、1人の顧客がどれだけの利益をその企業にもたらすか」を表す数値です。人の一生ではなく「顧客である期間を『生涯』と表現する」という意味を明確にするため「Customer Lifetime Value」(CLV・CLTV)と表記される場合もあります。

これまでのビジネスにおいて主流だった「モノ売り切りモデル」は、短期間における製品購入数を増やす、もしくは購入単価を上げる「ワンタイムバリューの最大化」が目標でした。しかし、「コト消費」への市場潮流の変化を感じとった多くの企業が、SaaSに代表される「サブスクリプションモデル」への転換を図っています。「サブスクリプション」とは、サービスや商品の所有権を瞬間的に買い取るのではなく、契約期間中の利用権に対して費用を継続的に支払う方式です。

顧客との継続的な関係によって収益を生み出すサブスクリプションでは、1人や1社の顧客による累計売上を定量化したLTVは重要な概念であり、成否を占う指標となっているのです。

LTVの提唱は約30年前


LTVの概念が提唱されたのは1990年ごろで、当時の定義では「平均的な新規顧客が、ある一定年数にもたらすと思われる利益の現時点での正味現在価値(Net Present Value:NPV)」と表現されています。

菓子メーカーなら「生涯に購入するチョコレートの枚数」、自動車メーカーなら「車に乗らなくなるまでに購入する自動車および関連製品の金額」、スーパーマーケットなら「生涯にスーパーで購入する金額」など、製品別のLTVや、業種別LTVをもとに、その最大化を目指したマーケティング戦略が立案されます。

元はB to C(個人向けビジネス)に使われることの多かったLTVですが、ソフトウェアのサブスクリプションモデルである、SaaSの浸透とともに顧客との関係継続に焦点が当たると、B to B(企業間ビジネス)でもLTVが重要指標として注目されるようになったのです。

LTV最大化への道のりとは


LTVを高めるには顧客との関係の長さと深さがファクターになります。

関係の長さは、すなわち「顧客との契約期間」です。顧客が取引開始から現在に至るまでに受け取った利用価値が高いほど、この期間は長くなります。
深さとは、サービスやその提供企業に対する「ロイヤルティ(愛着・信頼)」です。具体的な指標としては、契約アカウント数や契約プラン種別に基づく「購買単価の高さ」などが挙げられます。ロイヤルティが高いほど解約率は低くなり、新たなサービスや追加機能も積極的に採用してくれるようになります。

LTV最大化の要点は「契約期間の長期化」と「契約単価の高額化」にまとめられます。次に、具体的な数値を用いてLTVの計算方法を解説します。

LTVの計算方法



LTVの算出方法にはいくつかの種類がありますが、ここでは一般的なものから、サブスクリプションビジネスにおいて有効な手法まで一通り解説します。

もっともシンプルで一般的な算出方法


平均購買単価 × 平均購買頻度 × 平均継続期間
例えば、単価10,000円の商品を、月間3回、6カ月間継続的に購入されているサービスのLTVは、
¥10,000 × 3回 × 6ヶ月 = ¥180,000
という計算で求めることができます。

サブスクリプション向けの算出方法


平均購買単価(プラン) × 平均継続期間
商品ではなく、主に機能別に価格づけされたプランを売り、それを週や月、また年間で継続利用してもらうことが前提となるサブスクリプションモデルでは、「頻度」という概念は不要になります。具体例として、月額¥30,000のプランを6ヶ月間利用されるのが平均的なサービスのLTVは、
¥30,000 × 6ヶ月 = ¥180,000
という形になります。

また、サブスクリプションモデルでは、1契約あたりの平均LTVでだけでなく、事業としての合計値を期間ごとに予測していく必要があります。この際には単純な単価と期間の掛け合わせだけではなく、「契約数」の概念を追加し、その数の増減も考慮して計算する必要があります。計算式としては、
平均購買単価(プラン) × 平均継続期間 × 契約数 × (1 – チャーンレート)
となります。
例えば、現在をN+1年1月だったと仮定し、N年1月〜12月までの直近の過去12ヶ月を対象期間として計測した結果、平均購買単価(プラン)が¥30,000、平均継続期間が6ヶ月というボリュームで、契約が100である場合、この事業のLTVの年間合計値は
¥30,000 × 6ヶ月 × 100契約 = ¥18,000,000
となります。

次に、計測対象期間をN年7月〜N+1年6月までの12ヶ月として、今後半年を含めたLTVの年間合計値を予測する場合、これまでのビジネスの経緯を考慮して、契約数がどれぐらい減る(解約される)かを差し引いて考える必要があります。今後6ヶ月で事業が成長していると仮定し、単価(プラン)が¥35,000、継続期間は7ヶ月に上がっていることとし、チャーンレートは0.1(=10%)だったとすると、
¥35,000 × 7ヶ月 × 100契約 × (1 – 0.1)= ¥22,050,000
という計算になります。

もう1点、「契約数」について考慮すべき要素があります。それは「新規に獲得するであろう契約」です。解約によって減る数を引くだけでは実態的な予測としては足りず、新規に増えると思われる契約の数を足すことで、「増減」双方を勘案した予測値になります。
平均購買単価(プラン) × 平均継続期間 × 契約数 × (1– チャーンレート + 新規契約獲得率)
上記の計算式で算出します。「新規契約顧客」を数として足すわけですから、計画(予測)時は、契約プランが比較的廉価なところでスタートする顧客が多いとすべきです。継続期間も少し短くなると考えて、単価(プラン)は¥32,500、継続期間6.5ヶ月、新規契約獲得率は0.15(=15%)とすると、
¥32,500 × 6.5ヶ月 × 100契約 ×(1 – 0.10 + 0.15)= ¥22,18,1250
上記の計算が成り立ち、より実態に近い予測値を求めることができます。


LTV最大化へのポイント





LTVの算出方法を理解したところで、冒頭に述べたLTVを最大化させるための2つのポイントである「契約期間の長期化」と「購買単価の向上」を実現するための手法について詳しく見ていきましょう。

チャーンレート(解約率)を下げる

LTVを低下させる最大の要因はサービスの解約です。解約が発生しやすい以下のようなタイミングでの適切な対応が必要です。

タイミング1:利用開始直後


「利用したい期間だけ契約できる」ことがSaaSの特徴の一つですが、顧客の期待値と提供する価値に差があると、最低利用期間を過ぎればすぐに解約されてしまいます。これはチャーンレートを悪化させる大きな要因になります。新規契約者の早期解約防止対策は適切なオンボーディングの実施です。いち早くサービスに慣れてもらい、利用を通じてビジネスの成功を体験してもらうことで早期解約を予防できます。

タイミング2:利用状況の変化時


カスタマーサポートなどへの問い合わせが発生する以前から、解約の端緒は生じています。サービスの利用頻度が下がったり、数ある機能のうち使われているものが限定的であったりした場合には、担当者を通じてサービスの利用状況や顧客状況(不満の有無などのヘルスステータス)を把握し、解約の兆候を捉え、早期に改善策を講じることが大切です。

タイミング3:問い合わせ発生時


顧客からの問い合わせで不満が発覚した際には、解約の危険が高まっている緊急事態と捉えるべきです。対応次第ではすぐに解約を招く要因になりかねません。

蓄積した顧客データを、カスタマーサクセスチームや関連部門同士で共有し、問い合わせに対する迅速かつ的確な回答を行える体制作りや、対応の成功事例を元にしたフローのマニュアル化、その先の活動の標準化が、解約率の改善を促します。

「アップセル」「クロスセル」で購入単価を高める

LTVのアップを図るうえで欠かせない方法が、購入単価を上げる「アップセル」「クロスセル」です。この2種類の方法の特徴と違いを理解しておきましょう。

「アップセル」とは


機能の多寡に基づく「機能ベース」や、利用量の大小やアカウント数による「従量制」、またはその両方を掛け合わせたプライシングを設定しているSaaSでのアップセルは「上位プランへのアップグレード」になります。

基本的な切り分けは以下のような4タイプです。

▼無料プラン:
フリーミアムモデルで利用者数を増やす目的や、期間限定のフリートライアル用に設定されるプラン
▼廉価プラン:
基本的な機能だけ使いたい顧客や少数のアカウントで利用する顧客向けプラン
▼ミドルプラン:
多くの顧客が利用する「他社との差別化を図れる機能」を提供するプラン
▼ハイプラン:
サービスが提供できるすべての機能を提供するプラン
※顧客向けのカスタマイズ機能の提供を含むケースもあります。

アップセルを促すには、価格帯の違いによるサービスの切り分けを適切に設計する必要があります。
どの価格帯のプランに、どの程度の割合で顧客が分布するかはサービス開始前の予測と異なるケースも少なくありません。また競合サービスの価格変更・機能変更の影響で分布が突然変動することもあります。

顧客へアップセルを促す際はロイヤルティの高い顧客へのアプローチを重点的に行うとともに、顧客の抱える課題の解決とアップセルがどう結び付くかを明確に示し、理解してもらうことが重要です。そのためには、継続的なカスタマーサクセス活動によって顧客からの問い合わせや利用状況を蓄積し、課題を可視化しておくことがアップセル成功の下地を作ります。
可視化のポイントは「競合と比較した優位点・共通点・見劣りする点の把握」「全面解約や一部解約の理由の把握」などがあげられます。

会計ソフトの「弥生」を見てみると、廉価プランでは「FAQページの提供のみ対応」、ミドルプランでは「メール・電話・画面共有によるサポート対応」、ハイプランでは「個別の訪問指導によるサポート対応」と契約プランによってサポート内容を区別し、よりきめ細かいサポートを必要とする顧客には上位プランを勧め、アップセルにつなげているであろうと考えられます。

クロスセルとは


アップセルが単価の高い上位プランへのグレードアップなのに対し、「他の商品・サービスの追加購入」がクロスセルです。つまり付随するサービスなどを購入・契約してもらい単価を向上します。

SaaSのクロスセル事例として、採用広報向けのビジネスSNSを提供するWantedlyを見てみます。
アップセルとしてプランのグレードアップによってダイレクトスカウト機能の有無や、スカウトメールの送信上限が追加されるのに加えて、クロスセルとしては有料プラン契約企業向けに、他のSNSからの流入を促す広告やスカウト機能、社内報機能やコンディションマネジメント機能を追加のオプションプランとして提供しています。

LTV最大化のための適切な環境整備



カスタマーサクセス活動は、これまでに挙げたLTV最大化の方法と密接に関連しています。

顧客の利用継続を促すとともに、アップセル・クロスセルの提案を通じ、LTVの最大化を図るためには、カスタマーサクセス活動で生じやすい課題を解決する必要があります。

主な課題としては、
・部署ごとや個人ごとの活動になって必要な連携が行われない
・アクションの属人化
・社内に蓄積した顧客データを有効活用できていない
・既存のサービスとのデータ連係が難しい
などが挙げられます。

これらの課題を解決するためには、属人化を避け、顧客の行動や状況に関するあらゆるデータを一元管理し、見る人、見るデータ、見るタイミングで活動に差異や齟齬が極力発生しない体制構築が重要。カスタマーサクセス組織全体の活動レベルを向上させる適切な環境整備が求められるのです。
尾上 雄馬

執筆者情報:

尾上 雄馬(おのうえ ゆうま)

2007年に株式会社ビーエスピー(現ユニリタ)入社。
ITサービス向けヘルプデスクSaaS「LMIS」を新規開発から開発を担当。
開発業務の傍らサポートも兼務していたが、解約率の高まりに危機感を感じ、2017年より同サービスのカスタマーサクセスチームを立ち上げ責任者を担当。
カスタマーサクセス管理用のツールを内製し、解約率半減を実現。
この管理ツールを汎用化し、Salesforce上で稼働するカスタマーサクセス管理SaaS「Growwwing」として販売開始、2020年7月より事業化し責任者を担当。
itSMF JapanにおいてクラウドSLA分科会副座長、サービスカタログ分科会座長も歴任。


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