Growwwing
カスタマーサクセス(CS)における新しい役割として注目を集める「CS Ops」。基礎編ではその定義や役割、重要性についてご紹介しました。本記事では続編となる「実践編」として、実際にCS Opsを立ち上げ、運用を定着させていくためのプロセスやノウハウ、成功企業の事例を詳しくご紹介します。CS Opsを組織に取り入れることで、カスタマーサクセス活動をより戦略的かつ効率的に展開できるようになります。企業の成長を支える重要な基盤として、CS Opsがどのように活躍できるのかを実例とともに具体的に解説していきます。
CS Opsを導入するにあたって、まず必要なのが現状把握と準備です。やみくもに人材を配置したりツールを導入したりするのではなく、CS Opsの役割を明確にし、課題と目的を整理することが成功の鍵となります。
最初に取り組むべきは、CSM(カスタマーサクセスマネージャー)の業務内容を丁寧に洗い出すことです。現場では顧客支援に加え、レポート作成やツールへの情報入力、資料作成など、付随業務に時間を割かれているケースが多く見受けられます。こうした業務のボリュームや負担感を把握し、どの領域に支援が必要かを見極めることが出発点となります。定性的なヒアリングと定量的な時間計測を組み合わせて分析することで、支援すべき優先順位も明確になります。
次に、CS Ops導入の目的を具体的に設定します。組織が抱える課題や目指すゴールを明確にしたうえで、例えば「顧客の解約率を低減する」「オンボーディング期間を短縮する」といった形で数値的な目標を定め、それに対してCS Opsがどう貢献するかを設計します。ここではKGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)といったフレームワークを用いながら、達成基準を明文化することが重要です。
また、CS Opsの役割を組織内で正しく理解してもらうためには、関係部署との合意形成も欠かせません。営業やサポート、マーケティングなど、複数部門と連携が必要な場面が多いため、「なぜこのポジションが必要なのか」「どのような成果を見込めるのか」といった観点から丁寧な説明と対話を重ねることが求められます。特にリソースを共有する部門との関係性を良好に保つためにも、早期の関与と透明性ある情報共有がカギを握ります。
CS Opsの立ち上げには、その役割をどう設計し、どのような体制で運営するかを明確にすることが不可欠です。明確なミッションステートメントと業務スコープを定義し、それに基づいて日々の業務を体系化していく必要があります。
まず、CS Opsが担う業務範囲を定義することから始めましょう。この役割は、単なるアシスタント業務ではなく、データ分析や業務設計、ツールの導入・運用、さらにはプロセス改善に至るまで、広範な業務に及びます。CSMの業務を後方から支援し、組織全体の業務効率と顧客満足度を高めるための中核的な役割と位置づける必要があります。業務内容は属人的になりやすいため、できる限り手順やチェックリストを用意し、誰が担当しても一定水準を保てるように工夫することも大切です。
体制設計では、専任か兼任かという判断が重要になります。立ち上げ初期は他業務との兼任でスタートすることもありますが、CS Opsに求められる業務量や専門性が高まるにつれ、専任化が望まれる場面も増えてきます。特に、日常的な業務改善に加え、継続的なデータ分析やツールの高度運用が求められるフェーズでは、兼任体制では十分な成果を出すのが難しくなる傾向があります。チーム規模が拡大すれば、サブチームを設けて役割を細分化するのもひとつの方法です。
加えて、CS Opsの業務は多くの部門との連携が前提となるため、社内コミュニケーションの設計も重要な要素です。営業チームと連携して商談後のフォローアップ体制を整えたり、プロダクトチームと協力して新機能の活用を促進したりと、部門間の橋渡し役としての役割もCS Opsに求められます. す。こうした連携がスムーズに進むよう、定例ミーティングや情報共有チャネルの整備も計画的に進めましょう。SlackやNotionなどのツールを用い、関係者がリアルタイムで情報にアクセスできる体制づくりが求められます。
CS Opsの実務は、単なる運用サポートにとどまりません。むしろ、CSMが顧客との関係性構築に集中できる環境を整えるという重要な役割を果たす存在として、多面的に業務を支えています。本章では、現場で実際に行われている代表的な3つの支援業務を中心に、その効果やポイントについて詳しく見ていきます。
まず注目すべきは、CRMやCSツールの導入・運用支援です。多くの企業では、SalesforceやGrowwwingといったツールを導入しているものの、現場で十分に使いこなされていないという課題が見られます。CS Opsはそのギャップを埋めるために、現場の課題をヒアリングしたうえで、実際の業務フローに即したテンプレートやダッシュボードを設計します。また、CSMが求める情報に簡単にアクセスできるよう、フィルターやタグ設定を行うなど、運用しやすさを重視した構成を整えることも業務効率化に寄与します。
次に挙げられるのが、顧客データの可視化とその活用支援です。顧客の利用傾向や問い合わせ履歴、NPSスコア、解約予兆など、さまざまなデータを統合し、それを意味あるインサイトへと変換していく作業は、CSM単独では手が回りにくい部分でもあります。CS Opsはこの役割を担い、顧客のステージやリスク状況に応じて適切なタイミングでCSMにアラートを出す仕組みを構築したり、施策の効果測定レポートを定期的に提供したりすることで、科学的かつ再現性のあるCS活動を実現します。
そしてもうひとつの重要な支援が、業務プロセスの標準化とナレッジの体系化です。特にオンボーディングやアップセルの支援フローは、担当者によって対応が属人化しやすいため、CS Opsが主導してマニュアルやガイドラインを整備し、全体の品質を均一化する取り組みが不可欠です。新しく入社したCSMがすぐに現場で活躍できるよう、トレーニング資料やQ&A集を整備するのもCS Opsの仕事のひとつです。これにより、チーム全体の生産性が向上し、CS活動の成熟度も段階的に高まっていきます。
CS Opsの導入においては、理想と現実のギャップから失敗に至るケースも少なくありません。特に、導入当初の設計ミスや、役割・目的の曖昧さが要因となることが多いため、事前の想定とその後の見直しが鍵を握ります。本章では、代表的な失敗パターンと、それを回避・解消するための対応策について解説します。
最も多いのは、ツール導入のみを成果とし、その後の運用や定着支援を怠ってしまうケースです。例えば、新たにCRMや分析ツールを導入しても、それが実務に合っていない、もしくはトレーニングが不足して活用が進まないという状況が起こりがちです。このような課題に対しては、CS Opsが導入後も継続して利用状況をモニタリングし、使い方の改善点をフィードバックすることが求められます。小さな改善を積み重ねていくことで、現場に根づいた運用が実現できます。
また、CSMとCS Opsの役割が曖昧なまま進めてしまうことによる混乱も、よくある問題です。特に、どちらがどの業務を担うかが明確でない場合、責任の所在が不明確となり、業務の重複や放置が発生してしまいます。これを防ぐには、業務分掌を明文化し、両者で定期的に確認するプロセスを設けることが重要です。また、業務を区切るだけでなく、連携が必要な場面では共同で意思決定を行う体制づくりも有効です。
さらに、CS Opsが組織内で孤立してしまうという課題も無視できません。特に立ち上げ期は「誰のための役割なのか」が不明瞭になりがちで、現場からの協力が得られず、期待された成果を出せないということもあります。このような場合は、CS Ops自身が成果を可視化し、社内で積極的に発信していくことが必要です。月次レポートや社内共有会などを通じて活動内容と価値を伝えることで、理解と協力を得やすくなります。
実際にCS Opsを導入し、目に見える成果を上げた企業も多く存在します。本章では、2つの企業事例を通じて、CS Opsがどのような貢献を果たしたのか、具体的な施策と効果についてご紹介します。
まず、あるBtoB向けSaaS企業では、契約更新業務が属人化しており、期限切れの対応漏れが頻発していました。こうした状況に対して、CS Opsが専用の更新管理ダッシュボードを構築し、CSMごとの対応状況が一目で把握できるような運用体制を整えました。さらに、Slackと連携したリマインド通知や、ステータス更新の自動記録などを導入した結果、更新漏れが大幅に減少し、更新率は前年比で15%向上しました。この事例では、ツール整備だけでなく、現場への伴走支援も成功の要因となりました。
次に紹介する企業では、オンボーディングプロセスのばらつきが課題でした。従来は営業が主導する形で支援を行っていたため、担当者ごとに対応品質に差があり、顧客によっては期待する価値を受け取れないまま離脱してしまうケースが後を絶ちませんでした。CS Opsはこの状況を打開するために、オンボーディングテンプレートを整備し、顧客の業種や導入規模に応じたカスタマイズが可能な標準プロセスを設計しました。その結果、導入から1ヶ月以内の初期活用率が25%向上し、3ヶ月以内のチャーン率は半減するという明確な成果が得られました。
いずれの事例にも共通するのは、CS Opsが単なる補助役ではなく、プロジェクトマネジメントと業務改善の視点を兼ね備えた存在として機能していた点です。CSMと対等に協働しながら成果を創出していく姿勢が、成功の大きな要因となっています。
CS Opsは、カスタマーサクセスの進化に欠かせない機能として、今後ますますその重要性を増していくと考えられます。本記事で紹介したように、CS Opsは単なる支援部隊ではなく、戦略的にCS組織を支える存在です。業務の見える化や標準化、データ活用の仕組みづくり、部門間の橋渡し役など、多くの役割を担いながら、CSMが顧客価値提供に専念できる土台を整えます。
もちろん、すべてを一度に整えるのは容易ではありません。しかし、小さな課題から着手し、成果を積み重ねながら徐々に拡張していくことで、確実に組織への貢献度は高まっていきます。CS Opsの立ち上げと定着は、長期的視点に立って進めるべき変革です。企業の成長において欠かせないカスタマーサクセス。その未来を支えるCS Opsの可能性を、ぜひ一歩ずつ実践の中で広げていきましょう。
執筆者情報:
ユニリタ自社開発のフローチャートツール「Ranabase」にて開発に携わり、カスタマーサポートを担当し2022年に「Growwwing」チームへジョイン。
カスタマーサクセスメンバーとしてオンボーディング支援業務を経験し、現在ではその知見を活かし顧客の求めてる情報を発信するためにマーケティング分野を担当。
幅広い経験からの視点を生かし、カスタマーサクセスを行う方へのヒントとなるような記事を掲載できるよう全力で頑張ります。